お店で飲むコーヒーは、なぜあんなに液面がキラキラと輝き、美味しそうに見えるのでしょうか。
「雰囲気の良いカフェだから」と思いがちですが、実はもっと物理的な理由があります。それは、「光の質」と「光の当たる角度」が計算されているからです。
自宅で夜にコーヒーを淹れるとき、「お湯の線が見えにくい」「粉の膨らみが分からない」「サーバーの目盛りが読めなくて湯量がブレる」といった経験はありませんか? それはあなたの腕が悪いのではなく、抽出環境としての照明が整っていないことが原因の大半を占めています。
この記事では、インテリアとしての「おしゃれな照明」の選び方ではなく、あくまで「抽出の再現性を上げる道具」としての照明環境の作り方を解説します。
結論から言うと、必要なのは以下の3点だけです。
- 色温度:温白色(3500K前後)を選ぶ
- 演色性:Ra90以上の高演色LEDを選ぶ
- 配置:手元灯(タスクライト)を1つ追加する
これらを満たせば、賃貸の限られたスペースでも、コーヒーの液色が正しく見え、ドリップのコントロール精度が劇的に向上します。具体的なスペック基準と、賃貸でも真似できる3つの配置テンプレートを見ていきましょう。
おうちカフェ照明が「ダサく」て「使いにくい」3つの理由
「SNSで見るような雰囲気にならない」「なんとなく暗くて作業しづらい」。
当ラボにもよく寄せられるこの悩みですが、原因を分解すると、以下の3つの「光の失敗」に集約されます。
1. 天井のシーリングライト一灯で済ませている(シャドウイング問題)
日本の住宅で最も多いのが、部屋の中央にあるシーリングライト1灯で全体を照らすスタイルです。しかし、コーヒーコーナーを壁際や部屋の隅に作ると、自分の背中が光源を遮ってしまいます。
結果として、一番見たい「手元のドリッパーの中」に自分の影(シャドウ)が落ちて真っ暗になる現象が起きます。これでは、どんなに高性能なケトルを使っても、お湯の太さを目視でコントロールすることは不可能です。
2. 「エモさ」優先で、手元が暗すぎる(照度不足)
「カフェ風=薄暗い」というイメージから、極端に暗い電球色(2700K以下)のフィラメント電球などを選んでしまうケースです。リラックスするには良いのですが、抽出作業には圧倒的に光量が足りません。
JIS(日本産業規格)の照度基準において、一般的な作業には数百ルクスの明るさが推奨されますが、ドリップのような精密な視作業には、手元だけで500ルクス以上あると理想的です。
3. 色が正しく見えない(演色性の罠)
安価なLED電球や古い蛍光灯の下では、コーヒーの鮮やかな琥珀色がくすんで見えたり、黒く潰れて見えたりすることがあります。これは光の「演色性(Ra)」が低いことが原因です。色が正しく見えないと、焙煎度の違いや、抽出後半の液色の変化(過抽出のサイン)を見逃してしまいます。
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この「見え方の差」は、そのまま「味のブレ」に直結します。次章では、これを解決するための具体的な数値基準(スペック)を解説します。
コーヒー抽出を成功させる「光の3大スペック」基準
では、具体的に「どんな電球を買えばいいのか」という疑問に答えます。
インテリアショップで雰囲気だけで選ぶと失敗します。見るべきは、パッケージの裏側に小さく書かれている「色温度」「演色性」「明るさ(照度)」の3つの数値だけです。
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1. 色温度は「3000〜3500K(温白色)」が最強の解
色温度(ケルビン:K)は、光の色味を表す数値です。低いほどオレンジ色っぽく、高いほど青白くなります。
当ラボの結論として、コーヒーコーナーには「温白色(おんぱくしょく)」と呼ばれる3500K前後の帯域を強く推奨します。
なぜ「電球色(2700K)」ではダメなのか? それは、オレンジ色が強すぎて、浅煎り(ライトロースト)の繊細な茶色や、深煎り(ダークロースト)の黒色のニュアンスを塗りつぶしてしまうからです。逆に、オフィスのような「昼白色(5000K)」では色は見やすいですが、夜のリラックスタイムには覚醒作用が強すぎます。
3500Kの温白色は、豆本来の色を正しく見せながら、夜の空間に馴染む「いいとこ取り」のスペックです。
2. 演色性(Ra)は90以上を死守せよ
演色性(Ra)は、「太陽光の下での見え方にどれだけ近いか」を表す指標(最大100)です。一般的な安価なLED電球はRa80程度ですが、これでは赤色成分(R9)が不足しがちで、コーヒーの液色がなんとなく濁って見えます。
コーヒーが「美味しそう」に見えるラインは、ズバリRa90以上です。パッケージに「高演色」「Ra90」「Ra95」と明記されているものを選んでください。
- パナソニック「プレミアX」シリーズ:温白色(3500K)かつRa90という、まさにこの条件を満たすラインナップが明示されています。
- IKEA「SOLHETTA/ソルヘッタ」:一部のモデル(特にE17口金などの特定品番)でCRI 90(Ra90相当)をクリアしているものがあります。購入時は必ず仕様欄の「CRI」を確認してください。
3. 照度は手元だけで「500ルクス」を確保する
「500ルクス」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、これは百貨店の売り場や、読書灯の直下くらいの明るさです。
重要なのは、部屋全体を明るくする必要はないということです。JIS(日本産業規格)の照度基準でも、精密な作業エリアだけ局所的に明るさを確保する「タスク・アンビエント照明」の手法が推奨されています。
手元灯(タスクライト)を追加し、ドリッパーやスケールの直下だけ500〜1000ルクスを確保すれば、周りが薄暗くても作業性は完璧です。むしろ周囲との明暗差(コントラスト)が生まれ、ステージ上の主役のようにコーヒー器具が浮かび上がる視覚効果も期待できます。
【明るさの測り方】
簡易的ですが、スマホの無料アプリ(照度計アプリ)で十分目安になります。夜、いつもドリップする位置(ドリッパーの高さ)にスマホを置いて測ってみてください。もし200ルクス以下なら、間違いなく「暗すぎて見えていない」状態です。
【賃貸OK】環境別・照明配置の「正解」テンプレート
スペックが分かったところで、次は「どう配置するか」です。コーヒーコーナーの環境別に、3つの「正解テンプレート」を用意しました。
ポイントは、賃貸でも壁に穴を開けずに設置でき、かつ「耐熱・水対策」をクリアできる配置であることです。あなたの環境に近いものを選んでください。
パターンA:食器棚・キッチンボード派
Under Cabinet
状況:頭上に吊り戸棚や、キッチンボードの棚板がある場合。
解決策:「棚下灯(バーライト)」を棚の底面に貼り付けます。
最も影ができにくく、手元を均一に照らせる最強の配置です。器具自体が見えにくいので、見た目も非常にスマートに仕上がります。
プロの店舗施工でも使われる薄型ライトですが、コンセントプラグ付きモデルがありDIY可能です。「3000K(電球色〜温白色)/ Ra90以上」の仕様を選べる数少ない製品です。
重要:蒸気対策
電気ケトルや炊飯器の真上には設置しないでください。蒸気が直撃すると故障の原因になります。必ず左右にずらすか、蒸気レスのケトルを使用してください。
パターンB:ワゴン・メタルラック派
Clip & Arm
状況:IKEAのロースコグやメタルラックなど、支柱(ポール)や棚板がある場合。
解決策:「クリップライト」で支柱を挟みます。
アームが動くタイプを選べば、ドリップの時はドリッパーの中を覗き込むように照らし、終わったら壁に向けて間接照明にするなど、1台2役の使い方ができます。
ライト本体は安価なものでOKです。「口金E26」のタイプを選び、電球を前述の「パナソニック プレミアX(温白色)」などに交換するのが最もコスパが良い方法です。
配線のコツ
コードがぶら下がっていると生活感が出るうえ、引っ掛けて危険です。支柱に沿って黒い結束バンドやスパイラルチューブで固定し、「見せない配線」を徹底しましょう。
パターンC:壁も棚もない・独立派
Stand / Tension
状況:ダイニングテーブルや、壁のないアイランドカウンターで淹れる場合。
解決策:「フロアスタンド」または「突っ張り棒式照明」を立てます。
卓上に置くデスクライトは、ドリップの動作(肘の動き)の邪魔になりやすいため、床から立てるタイプか、天井と床で突っ張るタイプが推奨です。斜め後ろ〜横から照らすことで、ドラマチックな陰影が生まれます。
突っ張り棒システムの定番。おしゃれなだけでなく、任意の位置にスポットライトを固定できる機能性が優秀です。
賃貸での注意
強力に突っ張るため、天井の強度が必要です。賃貸の場合は、天井との接地面に保護用のEVAパッドを挟むなど、メーカーの設置ガイドに従って跡が残らないよう配慮してください。
安全性とメンテナンス|コーヒーコーナー特有のリスク管理
最後に、絶対に無視できない「安全」の話をします。
コーヒーコーナーは「水(湿気)」「熱」「粉」という、電気製品にとって最悪の条件が揃った場所です。火災や故障を防ぐために、以下の対策を講じてください。
トラッキング火災と微粉の恐怖
コーヒーミルを使うと、目に見えない微粉が飛び散ります。これがコンセントの隙間に溜まり、そこに湿気(湯気)が加わると、電気火花が発生して発火する「トラッキング現象」のリスクが跳ね上がります。
対策:
照明やミルのプラグには、必ず「トラッキング防止カバー」を付けてください。サンワサプライなどの「タイトラキャップ」等の名称で数百円で売られています。これは必須投資です。
蒸気(スチーム)とLEDの寿命
LED電球は実は「熱に弱い」という弱点があります。ケトルやコーヒーメーカーの蒸気が直撃する位置に電球があると、回路が腐食したり、寿命が極端に縮まったりします。
対策:
配置テンプレートでも触れましたが、熱源の真上は避けてください。難しい場合は「蒸気レス」のケトルを選ぶことで、照明配置の自由度が劇的に広がります。
シェードの素材は「拭けるもの」を選ぶ
布製や紙製のシェード(ランプカバー)は、コーヒーの微粉と油分を吸着してすぐに汚れます。しかも洗えません。
コーヒーコーナーで使うなら、金属、ガラス、プラスチックなど、「サッと水拭きできる素材」を選ぶのがメンテナンスの鉄則です。
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まとめ|照明は「第4の抽出器具」である
ここまで読んでいただきありがとうございます。
照明は単なるインテリアではありません。グラインダー、ケトル、ドリッパーに次ぐ「第4の抽出器具」です。
見えないもの(湯量、粉の壁、液色)をコントロールすることはできません。逆に言えば、光を整えるだけで、あなたのハンドドリップの精度は間違いなく一段階レベルアップします。
いきなり高い照明器具を買う必要はありません。まずは今あるデスクライトの電球を「高演色の温白色」に変えて、手元を照らして淹れてみてください。その「見えやすさ」に感動したら、ぜひ専用の照明コーナーを作ってみてください。
照明が整うと、次に効くのは「置き方」と「散らかり対策」です。手元が映えて、片づく“コーヒーバー”の作り方はこちら。

「美味しいコーヒー」は、美味しいと思える環境から生まれます。今夜のドリップが、最高の一杯になりますように。
▼次に読むべき記事
光(紫外線)はコーヒー豆の大敵でもあります。照明環境を整えたら、次は「豆の保存場所」も見直しましょう。
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JIS Z 9110:2010(照明基準総則)
推奨照度基準において、視作業の精細さに応じた照度区分(精密作業における推奨照度など)を参照。
日本産業標準調査会(JISC)JIS検索 -
演色性と色温度の定義について
パナソニックのFAQより、Ra(平均演色評価数)および色温度(K)の基礎定義・見え方を参照。
Panasonic:演色性(Ra)とは
Panasonic:色温度の概数とその光色 -
配線器具の火災事故防止について
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 (NITE) が公表している「トラッキング現象による火災」および 「電気ポット・電気ケトルの事故防止」に関する注意喚起情報を参照。
NITE:トラッキング現象による火災に注意
NITE:電気ケトル等の事故防止(注意喚起) -
突っ張り棒式器具の設置基準
平安伸銅工業株式会社(DRAW A LINE製造元)の公式資料(設置・使用上の注意)を参照。
DRAW A LINE:設置・取扱い資料
当記事における「推奨スペック(3500K / Ra90+ / 500lx)」は、公的基準をベースにしつつ、 編集部が複数の照明環境下でコーヒー豆の焙煎度判別およびドリップ抽出の視認性を検証した結果に基づく独自の見解です。 特定メーカーから金銭的対価を得て恣意的な推奨を行うものではありません。


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