「レシピ通りの分量でお湯を注いだのに、なぜかお店のような味にならない」
道具も揃えた。スケールで豆も計った。お湯の温度も守った。それなのに、出来上がったコーヒーがやけに苦かったり、逆に薄くて酸っぱかったりする。初心者の頃、誰もがぶつかる最大の壁がこれです。
その原因の多くは、「あなたの中挽き」と「レシピ作者の中挽き」がズレていることにあります。
レシピ本や動画では簡単に「中挽き(グラニュー糖くらい)」と言いますが、そもそも家にグラニュー糖がない家庭も多いですし、ミルメーカーによって「中挽き」の基準はバラバラです。これでは迷子になるのも無理はありません。
今回のレッスン#4は、そんな曖昧な「中挽き」という言葉を卒業する回です。感覚的な表現ではなく、物理的な基準でお使いのミルのダイヤルを固定し、味をコントロールする最初の「レバー」を手に入れましょう。
- 自分のミルで使う「中細挽き(ドリップ用)」のイメージをつかむ
- ハンドドリップ用の「基準クリック数(またはメモリ)」を 1 つ決める
- タイム(2分30秒〜3分00秒)と味をセットで観察する習慣をつくる
※レッスン#1〜#3で「分量」「レシピ」「お湯の温度」の基本を押さえている前提で進めます。まだの方は、先にこちらを読んでおくと理解しやすくなります。
→ 初心者レッスン#1|まずは1:16の基本比率を覚える
→ 初心者レッスン#2|「自分の基本レシピ」を決める
→ 初心者レッスン#3|温度で味を整える
挽き目で味が変わる「物理の仕組み」
「挽き目(粒度)」を変えると、なぜ味が変わるのでしょうか。細かくすると苦くなり、粗くすると酸っぱくなる。この現象は、魔法でもなんでもなく、単純な物理法則で説明できます。
鍵となるのは「表面積」と「お湯の通りにくさ(抵抗)」です。
ブロック氷とかき氷の違い
イメージしてください。コップに入れた水に「大きなブロック氷」を入れた場合と、「かき氷」を入れた場合、どちらが早く溶けるでしょうか?
答えはもちろん、かき氷です。氷を細かく砕くことで、水に触れる表面積が劇的に増えるため、一瞬で溶け出します。コーヒーもこれと同じです。
- 細かく挽く(Fine)
粉の表面積が増えます。お湯に触れる部分が多いので、コーヒーの成分が一気に溶け出します。また、粉同士の隙間が狭くなるため、お湯が通りにくくなり(抵抗が増える)、抽出時間が長くなります。
結果として、「濃い・苦い・重い」味になりやすくなります。 - 粗く挽く(Coarse)
粉の表面積が減ります。成分がゆっくりとしか溶け出しません。粉同士の隙間がスカスカなので、お湯は抵抗なく「サーッ」と通り抜けていきます。
結果として、「薄い・酸っぱい・軽い」味になりやすくなります。
つまり、挽き目を調整することは、蛇口をひねって成分の出る量を調整するのと同義なのです。
このシーソーの真ん中、つまり「成分が出すぎず、出なさすぎず」のバランスを取れるポイントが、私たちが目指すべき「中挽き」です。
【保存版】「中挽き」の正体を可視化する
では、具体的に「中挽き」とはどのくらいの大きさなのでしょうか?
よくレシピ本には「グラニュー糖くらいの大きさ」と書かれています。しかし、家淹れ珈琲研究所でのリサーチや篩(ふるい)分けテストの結果から考えると、私たちがハンドドリップ(ペーパーフィルター)で目指すべきサイズは、厳密には「中細挽き(Medium-Fine)」と呼ばれる領域です。
言葉で説明されてもピンとこないと思います。そこで、皆さんのキッチンの棚にある「砂糖と塩」と比較して、目指すべき粒度のイメージを明確にしましょう。
(Fine)
エスプレッソ寄り(ドリップではほぼ使わない)
(Medium-Fine)
V60等の基本!
(Medium)
サイフォン等
(Coarse)
フレンチプレス
裏技:迷ったら「1円玉」を見る
1円玉の厚み ≒ 約1.5mm
これが「粗挽き」の限界ラインです。これより大きい粒が目立つようなら、ドリップには粗すぎると判断してください。
まずは「グラニュー糖(中細挽き)〜アジシオ(中挽き)の間」を目指してください。パウダー状(上白糖や片栗粉)になっていたら細かすぎ、ザラメのようにゴロゴロしていたら粗すぎです。
挽き目のイメージがつかみにくい方は、挽き目と抽出の関係をもう少し理論的に整理した中級編の記事も参考になります。
→ コーヒー抽出の科学|「酸っぱい・苦い」をなくす味づくりの基礎理論
主要ミルの「基準クリック数」リスト
「見た目じゃ自信がない!」という方のために、ここからは数字の話をしましょう。
私が実際に使用して検証したデータや、メーカー推奨値を統合した「とりあえずここから始めれば大失敗しない」という基準設定値をリスト化しました。
お手持ちのミルがあれば、今すぐそのダイヤルに合わせてみてください。
-
Timemore C2 / C313〜15クリック
-
Hario スマートG / スリム10〜12クリック
-
Kalita Next G (電動)3〜4メモリ(中央)
-
Fellow Ode Gen 24〜5メモリ
-
ポーレックス13〜16クリック
※豆の種類や個体差でズレるため、あくまで「出発点」です。
この数値は「正解」ではありませんが、「迷子にならないためのベースキャンプ」です。
例えばTimemore C3をお使いなら、まずは「14クリック」に固定してください。「今日は13、明日は15」と変えるのは、まだ早いです。まずは14で固定して、次のステップで行う「時間の判定」に進みましょう。
ミル選びそのものをこれから検討する場合は、レッスン外の詳しい比較記事も役立ちます。
→ 【2025年版】コーヒーミルおすすめ10選|科学的視点で違いを解説
判定タイムトライアル。「2分30秒」の壁
ミルのダイヤルをセットしたら、いよいよ抽出です。ここでは、まだ味見はしません。まずは「時間」という客観的な数字で、挽き目が適正範囲に入っているかをジャッジします。
レッスン#2でお伝えした基本レシピ(粉15g:お湯240ml)で淹れた場合の、お湯が落ち切るまでのタイムを見てください。
基本レシピの復習が必要な場合は、先にこちらを読み直しておくとスムーズです。
→ 初心者レッスン#2|「自分の基本レシピ」を決める
合格ラインは「2分30秒 〜 3分00秒」
スマホのストップウォッチを用意して、蒸らし開始から最後の一滴が落ちるまでを計測します。
- 2分15秒未満(早すぎる)
お湯が「ザル」のように通り抜けています。これは「粗すぎ」のサイン。成分が出切らず、薄い味になっている可能性が高いです。 - 3分30秒以上(遅すぎる)
お湯が詰まってなかなか落ちてきません。これは「細かすぎ」のサイン。過剰に成分が出て、苦味やエグみが出ている可能性が高いです。 - 2分30秒 〜 3分00秒(合格ゾーン)
おめでとうございます! 挽き目は適正範囲(Sweet Spot)に入っています。まずはこのタイムに入るように、クリック数を調整してください。
味見をするのは、このタイムに入ってからです。タイムが極端にズレている段階で味を評価しても、「挽き目のせい」なのか「注ぎ方のせい」なのか判断がつかないからです。
味の修正「1クリックの魔法」
タイムが合格圏内に入ったら、最後にあなたの舌で微調整(キャリブレーション)を行います。ここからが「自分好みの味」を作る一番楽しい時間です。
ルールは簡単。「1クリックだけ動かす」ことです。一気に2も3も動かすと、何が原因で味が変わったのか分からなくなってしまいます。
「1クリック」は想像以上に大きい
たった1クリックですが、高級なミルほど、その1段で味の表情がガラッと変わります。
「酸っぱいから」といって一気に3クリック細かくすると、今度は苦すぎて飲めなくなることもあります。コーヒーの調整は、ラジオのチューニングを合わせるように、少しずつ、慎重に行うのがコツです。
よくあるQ&A
最後に、挽き目についてよくいただく質問に、家淹れ珈琲研究所としての見解をお答えします。
慣れてきたら変えるのが正解ですが、初心者のうちは「固定」をおすすめします。
一般的に、浅煎りは豆が硬く成分が出にくいので「やや細かく」、深煎りは成分が出やすいので「やや粗く」するのがセオリーです。しかし、変数を増やしすぎると迷子の原因になります。まずはご自分の「基準のクリック数」で淹れてみて、前述の「味調整ナビ」に従って微調整するアプローチのほうが、結果的に早く好みの味にたどり着けます。
浅煎りの酸味が気になりやすい方は、浅煎りに特化したレシピ解説も参考になります。
→ 浅煎りコーヒーが酸っぱい原因と対策(密度・HBL式レシピ)
いいえ、まずはそのままで大丈夫です。
確かに微粉を取り除くとクリアな味になりますが、同時にコーヒーの持つ複雑さやコクも失われることがあります。最近のハンドミル(Timemore C3など)は精度が高く、微粉の量も適度にコントロールされています。まずはミルの性能を信じて、そのままドリップしてみてください。
まとめ:今日の宿題
お疲れ様でした。挽き目の世界は奥が深いですが、今日覚えて帰ってほしいことはシンプルです。
「毎回適当に回すのをやめて、自分の基準を決めること」。
これだけで、あなたのコーヒーは「なんとなくの味」から「狙って出せる味」へと進化します。
スマホのメモ帳に記録してください。
(例:Timemore C3 → 14クリック / Next G → メモリ3)
基準が決まり、表面積のコントロールができるようになりました。しかし、まだ最後のピースが足りません。
同じ挽き目でも、お湯を「ドバドバ注ぐ」のと「ポタポタ注ぐ」のでは、味がまったく変わってしまうからです。
次回、レッスン#5では、いよいよ抽出の総仕上げ。「注ぎ方(注湯スピード)」で味を自在に操るテクニックを伝授します。
レッスン#5|「注ぎ」を変えれば味は変わる。抽出コントロールの決定版へ →本記事の執筆にあたり、以下の公的規格、業界標準、および専門家による文献・メーカー公式情報を参照しています。
-
カッピング(テイスティング)における挽き目基準:
Specialty Coffee Association (SCA), Cupping Protocols & Standards に関する資料および解説記事(2003年以降の改訂動向を含む)。
https://sca.coffee/sca-news/announcement/assessing-the-cupping-protocol-survey
※SCA が定めるカッピングプロトコルと標準カップの条件に基づき、挽き目(粒度)と抽出条件の関係を整理しています。 -
砂糖・塩の粒度規格について:
独立行政法人 農畜産業振興機構 (alic)「砂糖の種類と特徴・使い方」に関する解説ページ。
https://www.alic.go.jp/joho-d/knowledge/sugar/r4_001810.html
パールエース「クッキーをレベルアップさせる『超微粒グラニュ糖』」コラム。
https://www.pearlace.co.jp/column/05_granulated_sugar/
※グラニュー糖の粒の大きさと一般的な分類を確認し、「中細挽き(Medium-Fine)」との対応関係を説明する際の参考としています。 -
コーヒー抽出の物理原理:
Jonathan Gagné, The Physics of Filter Coffee, 2020.
※粒度分布・表面積・抽出効率(Extraction Yield)の関係、およびフィルター抽出における粉層抵抗の理論的背景を参照しています。


コメント