初心者レッスン#3|お湯の温度で「甘さ」が変わる。失敗しないコーヒー温度レッスン

こんにちは、家淹れ珈琲研究所です。

「道具も揃えた(レッスン#1)。分量も1:16で計れるようになった( レッスン#2 / 抽出比率やTDSの詳しい話は 「コーヒードリップの黄金比とTDS」も参照) 。でも、なぜか昨日と今日で味が違う…」

そんなふうに感じたことはありませんか?

同じ豆、同じレシピで淹れているのに味が安定しない。その原因の多くは、実は「お湯の温度」に隠れています。

コーヒー豆に含まれる成分は、お湯の温度によって「溶け出す顔ぶれ」がガラリと変わります。温度は、いわば苦味と酸味のバランスを操る「ボリュームつまみ」のようなもの。

今回のレッスン#3では、難しい化学式は一旦脇に置いて、今日からすぐに実践できる「あなただけの基準温度」を決めていきます。高価な温度計がなくても大丈夫。シンプルな「ルール」を一つ持つだけで、いつでも「あの日の美味しい味」を再現できるようになりましょう。

このレッスンのゴールと、「なんとなく熱湯」の罠

沸騰したお湯=正解、だと思っていませんか?

ハンドドリップを始めたばかりの頃、多くの人がやりがちなのが「電気ケトルのスイッチが切れた瞬間、アツアツのままドリップする」というスタイルです。

「お湯は熱いほうがしっかり抽出できそう」
「冷めると美味しくなさそう」

その感覚、とてもよく分かります。実際、北欧スタイルのような極浅煎りの豆であれば、沸騰直後のお湯を使うことが正解のケースもあります。

しかし、もしあなたがスーパーやカルディで購入した一般的な焙煎度(中煎り~深煎り)の豆を使っているなら、「沸騰直後の熱湯ドリップ」は、制御不能な暴走ダンプカーのようなものかもしれません。

コーヒーの成分抽出には、科学的なルールがあります。

  • 温度が高い(95℃以上)ほど、成分が溶け出すスピードは爆発的に上がります(運動エネルギーの増加)。
  • 特に、後味を悪くする高分子の「重たい苦味・渋み成分」は、高温のお湯でしか溶け出しにくいという性質があります。

つまり、何も考えずに熱湯を注ぐということは、美味しい成分だけでなく、喉にイガイガと残る雑味まで、全てを無理やり引き剥がしてカップに注いでいるような状態なのです。

「なんとなく熱湯」の落とし穴
× 熱湯ドリップ(約100℃)
雑味まで全部出る!
  • 成分が一気に溶け出す
  • 苦味・渋みが出やすい
  • コントロールが難しい
◎ 適温ドリップ(90℃前後)
美味しいところだけ!
  • 必要な成分だけ溶かす
  • 甘さが引き立つ
  • 味が安定する

このレッスンのゴールは「自分なりの基準温度」を持つこと

誤解しないでいただきたいのは、「100℃は絶対ダメ」と言いたいわけではありません。プロのバリスタでもあえて高温を使うことはあります。

初心者が避けるべきなのは、「温度をコントロールできていない状態」です。

ある日は沸騰直後(98℃)、ある日はテレビを見ていて少し冷めたお湯(90℃)。これでは、せっかく分量を1g単位で計っても、出来上がるコーヒーの味は別物になってしまいます。

今日の目標:
「いつも◯℃くらい(または◯秒待って)淹れている」と言える、自分だけの定規を持つこと。

細かい数字に神経質になる必要はありません。「毎回同じ条件」に揃えること。それが、お家コーヒーをレベルアップさせる最短ルートです。

温度で何が変わるの?甘さ・酸味・苦味のざっくりイメージ

「温度を変えると味が変わる」と言われても、具体的にどう変わるのかイメージしにくいかもしれません。

ざっくり言うと、コーヒーの抽出において温度は「再生速度」のようなものだと考えてみてください。

コーヒー粉から成分が溶け出すとき、実は順番があります。「酸味」は水に溶けやすく最初の方に出てきます。「甘み」がそれに続き、重たい「苦味・渋み」は後からゆっくり出てきます。

お湯の温度は、この一連の流れのスピードをコントロールします。

  • 温度が高い(90℃後半〜):再生速度が「倍速」
    成分が一気に溶け出します。苦味やボディ感(コク)がしっかり出ますが、行き過ぎると渋みやエグみまで出てしまいます。
  • 温度が低い(80℃前半):再生速度が「スロー」
    成分がゆっくり溶けます。苦味が出る前に抽出が終わってしまうため、酸味が際立ち、あっさり・薄い味になりがちです。

私たちが目指したいのは、酸味の角が取れ、嫌な苦味が出る手前の、一番美味しい「甘さのスイートスポット」に着地させることです。

温度と味のバランスメーター
甘さの適温 (Sweet Spot)
低温 (80℃〜) 中温 (90℃前後) 高温 (95℃〜)
酸味・すっきり
(抽出不足気味)
甘み・まろやか
(バランス良)
苦味・渋み
(過抽出気味)

「抽出時の温度」と「飲むときの温度」は別物

ここで一つ豆知識です。今回メインでお話しするのは「粉にお湯をかける時の温度」ですが、実は「飲む時の温度」も味の感じ方に大きく影響します。

人間の舌(味蕾にあるTRPM5という受容体など)は、温度によって感度が変わります。一般的に、少し冷めた60℃付近の方が「甘み」を敏感に感じやすくなると言われています。

「淹れたてのアツアツが一番美味しい」と思われがちですが、少し冷めてきた頃に「あれ?さっきより甘いかも」と感じるのは、この体のメカニズムのおかげです。抽出温度をコントロールしつつ、飲む時はゆっくり味わってみてください。

Step1|あなたの環境で「基準温度」を1つ決めよう

それでは実践編です。あなたの持っている道具に合わせて、明日からの「基準」を決めましょう。

ここでは2つのルートを提案します。どちらか自分に合う方を選んでください。

ルートA:温度調整ケトルがある人(イージーモード)

もしあなたが温度設定できる電気ケトルをお持ちなら、話は簡単です。

まずは「90℃」に設定してください。

SCA(スペシャルティコーヒー協会)の基準では90〜96℃前後の範囲が推奨されていますが、家庭での失敗(雑味が出るリスク)を避けるには、その下限である90℃からスタートするのが最も安全です。ここを基準点(センターピン)にして、後で微調整していきます。

ルートB:普通のケトル・やかんの人(工夫モード)

「温度計なんて持ってない!」という方も安心してください。私も長年、普通の月兎印のポットで淹れていました。

温度計なしで再現性を高めるには、以下の2つの方法があります。

  1. 待ち時間法:沸騰したらフタを開けて「〇〇秒待つ」と決める。
  2. 移し替え法(推奨):沸騰したお湯を別の容器に移して温度を下げる。

特におすすめなのが「移し替え法」です。沸騰したお湯を常温のポットやサーバーに移すだけで、熱が奪われて適温になります。実はこれ、UCCコーヒーアカデミーなどのプロの講習でも教えられている、確実なテクニックなんです。

温度計なしでOK!「移し替え」温度マジック
1
お湯を沸騰させる
100℃
ヤカン・電気ケトル
2
ドリップポットへ移す
約93〜95℃
★浅煎り・中煎り
3
サーバーへ移してから戻す
約85〜90℃
★深煎り

※容器の素材や室温で多少変わりますが、「毎回同じ動作」をすることが再現性の鍵です。

ポイント:
正確な温度が分からなくても大丈夫。「沸騰したら、必ずドリップポットに移し替えてから淹れる」というルーティンを守るだけで、少なくとも「毎回100℃の熱湯がかかる」という事態は回避でき、味は格段に安定します。

レッスン#2で決めた1:16レシピに、この“基準温度”をセットしよう

これで、あなたの基本フォームが完成に近づきました。

「粉15g / お湯240g / お湯の温度90℃(または移し替え1回)」

これが、今のあなたの「標準フォーム」です。明日からは、迷わずこの設定で淹れてみてください。

よくあるギモンQ&Aで、冬場や器具ごとの不安をつぶす

最後に、温度管理についてよくいただく質問にお答えします。

Q1 冬場はお湯がすぐ冷めちゃうんですが、どうしたらいい?

A. 器具の「予熱(リンス)」を徹底しましょう。

特に冬場、冷え切った陶器のドリッパーやサーバーにお湯を注ぐと、一瞬で10℃近く温度が奪われることがあります。ドリップを始める前に、必ず器具全体にお湯を通して温めてください。キッチンが極端に寒い日は、基準温度を1〜2℃高めに設定してスタートするのも有効です。

サーバーの材質による温度の落ち方は、当ラボの検証記事 「コーヒーサーバーは本当に必要?味・温度・香りへの影響と選び方」 でも詳しくまとめています。冬場にどんなサーバーを使うか迷っている方は、あわせてチェックしてみてください。

Q2 温度調整ケトルはやっぱり買うべきですか?

A. お財布に余裕があれば、投資価値は非常に高いです。

最優先すべきは「スケール(はかり)」ですが(詳しくは 「コーヒースケールで流速を計測する意味と、買うべきモデルまとめ」 で解説しています)、その次に味が劇的に変わるのは間違いなく温調ケトルです。

最近は山善(Yamazen)などから1万円以下で高性能なモデルも出ています。具体的な選び方やおすすめモデルは、 「コーヒーケトルおすすめ|温度調節と注ぎの科学で選ぶ『一生モノ』の3選」 にまとめていますので、今のケトルでの調整に限界を感じたら、ぜひ検討してみてください。

Q3 数字をきっちり守れないと意味ないですか?

A. いいえ、「だいたい同じ」なら十分意味があります。

厳密に90.0℃である必要はありません。一番の敵は「日によってバラバラなこと」です。「沸騰して一呼吸置いてから」という自分のリズムが一定であれば、それだけで味のブレは大幅に減らせます。気楽に続けてください。

もっと深く知りたくなった人へ|温度の科学“研究ノート”案内

今回のレッスンでは「ざっくりルール」をお伝えしましたが、家淹れ珈琲研究所には、もっとディープな科学的データを知りたい方のための「研究ノート(中級記事)」も用意しています。

「なぜその温度で甘くなるのか?」「最新のSCA基準はどうなっているのか?」など、理屈を知って納得したい方は、こちらの扉を開いてみてください。

📖 研究ノート:コーヒーの味は温度で決まる
甘さを引き出す「最適温度」を溶解度曲線などの科学データを用いて徹底解説。脱・感覚派を目指すあなたへ。
☕ 抽出の科学:アロマと温度の関係
なぜ豆によって香りの立ち方が違うのか?揮発性成分と温度の関係を解き明かします。

まとめ|レッスン#3の宿題は「いつも同じ温度パターン」を決めること

お疲れ様でした。これで、あなたのハンドドリップには「分量」に続いて「温度」という強力な武器が加わりました。

🎓 今日の宿題
いつもの1:16レシピに対して、「基準温度」を1つ決める (例:90℃設定 / 沸騰後に1回移し替え、など)
豆の焙煎度に合わせて、「浅煎りは高め・深煎りは低め」とメモしておく

道具、分量、そして温度。ここまで固定できれば、コーヒーの味は驚くほど安定してきます。

さて、次はいよいよシリーズ最終章。味の微調整を行うための最後の変数、「挽き目(粒度)」について学びます。

「ちょっと苦いな」「もっと濃くしたいな」と思った時、最後に触るべきダイヤルはここです。

次のレッスンへ進む:挽き目で味を操るテクニック >
参考文献・出典
  1. Specialty Coffee Association (SCA). “Coffee Standards.”
    https://sca.coffee/research/coffee-standards (Accessed 2025-12-03)
    ※SCAが公開しているコーヒー標準(Coffee Value Assessmentのサンプル準備・テイスティング手順等)における湯温の推奨レンジ(概ね90〜96℃)を参照。
  2. Talavera, K., et al. “Heat activation of TRPM5 underlies thermal sensitivity of sweet taste.” Nature, 438, 1022–1025 (2005).
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16355226/
    ※温度変化による味覚受容体(TRPM5)の感度変化、特に甘味の感じやすさに関する基礎研究として引用。
  3. Illy, A., & Viani, R. “Espresso Coffee: The Science of Quality.” Academic Press.
    ※コーヒー成分(酸・糖・高分子化合物)の溶解速度と温度依存性に関する基礎理論を参照。
  4. UCC上島珈琲株式会社. 「おいしいコーヒーの淹れ方:コーヒーを淹れるお湯の温度で味は変わる?」UCCコーヒーアカデミー。
    https://www.ucc.co.jp/enjoy/brew/howto-drip_15.html
    ※家庭向けに紹介されている湯温と抽出手順、および「移し替え」を含むハンドドリップの考え方を参照。
  5. Parenti, A., et al. “Brewing temperature and particle size effects on the chemical and sensory profile of filtered coffee.” Food Research International (2014).
    ※抽出温度と粉砕度がフィルターコーヒーの化学組成および官能特性に与える影響に関する研究として引用。

※本記事は「家淹れ珈琲研究所」の編集ポリシーに基づき、公的機関や専門機関(SCA等)の基準、および査読付き論文を一次情報として優先的に参照しています。特定の器具メーカーからの金銭的な提供(PR案件)はありません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次