Lesson #1で道具を揃えて、おうちコーヒーの第一歩を踏み出したみなさん、こんにちは。週末のドリップ、楽しんでいますか?
自分で淹れるコーヒーは格別ですが、続けているとこんな「モヤモヤ」に直面することがあります。
「先週はすごく美味しく淹れられたのに、今日はなんだか薄い気がする……」
「同じ豆を使っているはずなのに、日によって味が違う……」
せっかく奮発して買ったスペシャリティコーヒー。どうせなら、毎回「あの美味しい味」を再現したいですよね。
実は、味がブレてしまう最大の原因は、あなたの腕前ではありません。もっと単純な「数字」の問題です。
今日のレッスンで覚えて帰ってほしいことは、たった一つだけ。この「魔法の数字」さえ知っておけば、あなたのコーヒーは明日から劇的に安定します。
基本設定
分量
科学 Lesson 4 挽き目
調整 Lesson 5 注ぎと
時間 Lesson 6 味の
診断 Lesson 7 鮮度と
飲み頃 Lesson 8 保存と
冷凍 Lesson 9 コーヒーの水
入門 Lesson 10 器具投資の
優先順位 Lesson 11 好きな味の
言語化 Lesson 12 中級への
ロードマップ
※色がついたカードが、今読んでいるレッスンです。ほかはタップすると各回のページに移動します。
このレッスン#2で身につくこと
- 「粉1:お湯16」という基準レシピを決めて、毎回同じ味を再現する
- 濃い/薄いの違和感を、感覚ではなく「1:15〜1:17」の比率で調整する
- アイスコーヒーやカフェオレ、複数杯ドリップへの応用イメージをつかむ
このレッスンのゴールと、「味がブレる」本当の理由
「ドリップって、お湯の注ぎ方が難しいんでしょ?」
そう思っている方は多いですが、実は少し違います。注ぎ方のテクニックよりも前に、もっと致命的に味を左右してしまう要素があります。それが「分量のブレ」です。
同じ豆・同じ器具なのに、毎回味が違うのはなぜ?
もしあなたが、「昨日は美味しかったのに、今日はイマイチ」と感じているなら、十中八九、以下の「初心者あるある」に当てはまっているはずです。
- コーヒー粉を「スプーンですりきり1杯」で計っている
- お湯の量を「なんとなくマグカップ8分目」で決めている
- 「今日は濃いめがいいから」と、感覚で粉を少し多めに入れた
これ、実は以前の私もやっていました。「専用のスプーンを使っているんだから、毎回同じ量でしょ?」と思いますよね。
でも、コーヒー豆は焙煎度(深煎り・浅煎り)によって重さが全然違うんです。深煎りの豆は軽く、浅煎りの豆は重い。同じスプーン1杯でも、実際には2〜3gもの誤差が出ることがあります。
たかが2gと思うかもしれませんが、1杯分のコーヒーにおける2gのズレは、料理で言えば「塩小さじ1」が「小さじ2」になるくらい、味のバランスを崩壊させる大きな違いなんです。
まず整えるべきなのは、“分量”という土台
味の正体は、シンプルに言えば「濃さ(濃度)」と「抽出量」で決まります。
お湯と粉の比率が変わってしまえば、それはもう「別の飲み物」を作っているのと同じことなのです。
これができれば、味のコントロールは驚くほど簡単になります。
まだコーヒースケールを持っていない方は、ここで一度「粉とお湯を数字で管理できる道具」をそろえておくと、この先のレッスンが一気にラクになります。
あわせて読みたい コーヒースケールで「流速(g/s)」を計測する意味と、買うべきモデルまとめ「1:16」の黄金比ってなに?ざっくりイメージだけつかもう
分量を固定することの大切さはわかりました。では、具体的に「何グラムの豆に、何グラムのお湯」を使えばいいのでしょうか?
ここで登場するのが、世界中のバリスタが共通言語のように使っている「1:16」という黄金比です。
「粉1に対してお湯16」の関係を、まずはざっくり覚える
難しい数式を覚える必要はありません。これだけ覚えてください。
「使いたいコーヒー粉の重さに、16を掛けた量のお湯を注ぐ」
これだけです。イメージとしてはこんな感じです。
具体例を挙げると、以下のようになります。
- 粉 10g なら → お湯 160g
- 粉 15g なら → お湯 240g
- 粉 18g なら → お湯 288g(約290g)
「きっちり288gじゃなきゃダメ?」と不安になる必要はありません。ドリップ中に1〜2gズレても、味への影響はごくわずかです。「だいたい×16倍のお湯を入れるんだな」という感覚さえあれば十分です。
なぜ世界中で「およそ1:15〜1:17」がよく使われるの?
なぜ「16倍」なのでしょうか? 10倍でも20倍でもなく。
実はこの「1:15〜1:17」という帯域は、人間が飲んだときに「濃すぎず、薄すぎず、甘みと酸味のバランスが最も良い」と感じるスイートスポットなのです。
コーヒーの味を科学的に分析するSCA(スペシャルティコーヒー協会)という国際的な団体も、この比率周辺を「ゴールデンカップ・スタンダード(理想的な抽出基準)」として推奨しています。
欧米の基準(1:17〜1:18)は少しスッキリめが多いですが、日本の家庭ではしっかりとしたコクや甘みが好まれる傾向にあるため、当ラボでは「1:16」を中心(基準点)として設定します。
※「もっと詳しく知りたい!」という理系脳の方は、抽出濃度(TDS)や収率について解説した こちらの研究ノート(黄金比とTDSの深掘り) を後で覗いてみてください。今は読み飛ばしてOKです。
Step1|あなたの「1杯分の基本レシピ」を1つ決めよう
理屈はさておき、まずは明日から使う「あなた専用の基本レシピ」を1つ決めてしまいましょう。
レッスン#1のレシピを、“1:16目線”で整理し直す
実は、前回の レッスン#1 でとりあえず試してもらった「粉15g/お湯240g」というレシピ。あれは適当な数字ではなく、最初からこの「1:16」の黄金比に合わせて設計していたものでした。
もし今、「自分は粉20gで淹れているけど、お湯は適当だったな…」という方がいたら、一度「20g × 16 = 320g」で淹れてみてください。「あ、これが基準の濃さなのか!」という発見があるはずです。
1杯〜2杯までの“すぐ使える早見表”を作る
いちいち電卓を叩くのは面倒ですよね。よく使う分量をカードにまとめました。
ご自宅のマグカップに水を8分目まで入れて、重さを測ってみてください。それに一番近いものを選べばOKです。
(すっきり飲みたい時に)
(お店のレギュラーサイズ相当)
(たっぷり1.5杯分)
※出来上がり量が注いだお湯より少し減るのは、コーヒーの粉がお湯を吸収するからです(粉1gあたり約2gのお湯を吸います)。
今日からは、そのレシピを“固定”して数日続けてみよう
どれか一つ選びましたか?
では、今日からの1週間は、どんな豆を買ってきても、まずはその「固定レシピ」で淹れてみてください。
基準ができると、「この豆は苦味が強いな」「この豆は意外と酸っぱいな」という、豆ごとの個性がはっきり分かるようになります。これが、コーヒー上達の近道です。
Step2|濃い or 薄いを、“比率”で微調整する感覚を身につける
自分だけの「固定レシピ(1:16)」が決まったら、次はそれを好みに合わせて微調整するステップです。
ここで大事なのは、「感覚で粉を増減しないこと」。粉の量をいじると計算が面倒になるので、私たちは常に「お湯の量の増減(比率)」だけで味をコントロールします。
「濃い…」と思ったら1:17へ、「薄い…」なら1:15へ
調整はとてもシンプルです。
- 「ちょっと濃すぎるな」と感じたら
お湯を増やして、比率を 1:17 に近づける。 - 「薄くて物足りないな」と感じたら
お湯を減らして、比率を 1:15 に近づける。
たとえば、いつもの「粉15g / お湯240g (1:16)」を基準にした場合:
- 濃くしたい(1:15)→ 粉15g / お湯 225g
- 薄くしたい(1:17)→ 粉15g / お湯 255g
このように、粉の量は固定したまま、お湯だけを±15g(大さじ1杯分くらい)動かすだけで、味の印象は驚くほど変わります。
比率をいじると、どんな味の変化が出る?(感覚だけ覚える)
数字だけ言われても味のイメージが湧かないと思います。1:15と1:17で、具体的にどう味が変わるのかを視覚的にまとめました。
朝、目を覚ましたいときは1:15寄りでガツンと。
食後やリラックスタイムには1:17寄りで紅茶のように軽やかに。
こんな風に、気分に合わせて「数字」を選べるようになれば、あなたはもう脱・初心者です。
「今日はどっち寄り?」と、飲みながらメモしてみよう
ぜひやってみてほしいのが、スマホのメモ帳に「今日:1:16 → ちょっと薄かった」と一言残す習慣です。
この「ログ(記録)」さえあれば、次の日淹れるときに「昨日は薄かったから、今日はお湯を少し減らして1:15.5で淹れてみよう」と、明確な作戦が立てられます。これが上達への一番の近道です。
Step3|よくあるギモンQ&Aで、つまずきポイントをつぶしておく
最後に、ここまでの話で初心者の方が抱きがちな疑問にお答えしておきます。
“お湯のg”って、“mL”と同じで考えていいの?
はい、おおむね「1 g ≒ 1 mL」と考えて大丈夫です。
厳密にはお湯の温度によって体積は膨張しますが、家庭でのドリップにおいては無視できるレベルの誤差です。スケールの表示(g)だけを見ていれば問題ありません。
アイスコーヒーやカフェオレも1:16で考えていい?
基本の考え方は同じですが、少し応用が必要です。
アイスコーヒー(急冷式)の場合:
「お湯+氷=総水量」と考えます。例えば総量240g(1:16)で作りたいなら、「お湯140gでドリップして、氷100gで急冷する」といった配分にします。
カフェオレの場合:
牛乳で割る分、コーヒー自体はかなり濃く作る必要があります。1:16ではなく、お湯を減らして「1:12〜1:14」くらいまで濃く抽出するのがおすすめです。
以前1:16で淹れたコーヒーに牛乳を入れたら、ただの薄いコーヒー水になってしまいました…。カフェオレには思い切った濃さが必要です。
できあがったアイスコーヒーを長く冷たいまま楽しみたい方は、 結露しないアイスコーヒータンブラーの選び方 もあわせてチェックしてみてください。
家族の分をまとめて淹れるときはどうすればいい?
単純な掛け算でOKです。
2杯分なら、粉も倍、お湯も倍。「粉30g / お湯480g」ですね。
粉の量が増えると抽出にかかる時間が伸びますが、比率さえ一定なら味の方向性は大きくズレません。まずは難しく考えず、比率を守ることだけ意識してみてください。
もっと知りたくなった人へ|黄金比とTDSの“深掘りルーム”
今回のレッスンでは、あえて小難しい理屈を省きました。まずは「やってみて、美味しくなること」が最優先だからです。
でも、もしあなたが「なんで1:16だと美味しくなるの?」「科学的な根拠が知りたい」とウズウズしているタイプなら……おめでとうございます。あなたはもうこちら側の住人です。
🧪 「研究ノート」への入り口
まとめ|レッスン#2の宿題は「1:16をスタート地点にする」こと
お疲れさまでした!
最後に、今回のレッスンのおさらいと「宿題」を出して終わりにしましょう。
今日からやってほしいことは、この2つだけ
(例:粉15 g / お湯 240 g)
(±1の範囲で、お湯の量だけを変えてみる)
明日コーヒーを淹れるときは、ぜひスケールの前で「粉の量 × 16」と唱えてからお湯を注いでください。
そのひと手間だけで、あなたのコーヒーは「なんとなくの一杯」から「狙って淹れるプロの一杯」へと変わります。味が揃えば、毎日のコーヒータイムがもっと楽しくなるはずです。
次はレッスン#3へ:「温度」で甘さを引き出そう
分量が整ったみなさん、次は味のキャラクターを決める「お湯の温度」のお話です。
実は、同じ豆・同じ1:16でも、90℃で淹れるのと83℃で淹れるのとでは、驚くほど味が変わります。
次は「温度計」を持って集合してください。甘さを引き出す魔法の温度を探しに行きましょう!
NEXT ▷ 初心者レッスン#3「温度」を変えれば、コーヒーはもっと甘くなる
-
SCA (Specialty Coffee Association):
SCA Brewing Standards (The Golden Cup Standard)
※抽出比率およびTDSの推奨範囲に関する国際基準として参照 -
SCAJ(一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会):
日本におけるスペシャルティコーヒーの定義と普及活動
※国内の嗜好傾向や抽出スタイルを把握する際の参考情報として参照 -
Ted Lingle (1996):
The Coffee Brewing Handbook. Specialty Coffee Association of America.
※抽出収率と味覚の関係性(Bitter/Sweet/Sourのバランス)に関する基礎理論として参照 -
検証データ:
家淹れ珈琲研究所 編集部による実測テスト(2024.01 – 2024.03)
※国内流通の主要ドリッパー(Hario V60, Kalita Wave)および市販のスペシャルティコーヒー豆を用いたレシピ検証に基づく
本記事で紹介している「1:16」という比率は、SCAの推奨する「1:18 (55g/L)」をベースに、日本の家庭環境および一般的な嗜好に合わせて編集部が最適化したガイドラインです。厳密な科学的定義については、参照元の専門書等をご確認ください。


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