こんにちは、家淹れ珈琲研究所です。
「お店で飲むような美味しいコーヒーを、家でも淹れてみたい」
そう思ってハンドドリップの器具を買ってみたものの、いざ淹れてみると「昨日は美味しかったのに、今日はなんだか酸っぱい」「お湯を注ぐだけで精一杯で、味まで気が回らない」といった経験はありませんか?
この「初心者レッスン」シリーズでは、そんな過去の私のような悩みを持つ方に向けて、難しい理屈は一旦置いておき、「最短ルートで失敗しないドリップ」を身につけるためのステップを全6回で解説します。
記念すべき第1回目(レッスン#1)は、美味しいコーヒーを淹れるための「準備」のお話です。
このレッスンのゴールと、対象読者
あなたのハンドドリップ、「なんとなく」でやっていませんか?
もしあなたが、以下のようなスタイルでコーヒーを淹れているなら、この記事はあなたのためのものです。
- マグカップの上に直接ドリッパーを乗せている
- コーヒー豆はメジャースプーンですりきり1杯、2杯と数えている
- お湯の温度は計らず、沸騰したお湯をそのまま(または適当に冷まして)使っている
- お湯の量も「カップがいっぱいになるまで」と目分量で注いでいる
これらは決して「間違い」ではありません。気軽に楽しむ分には十分なスタイルです。
しかし、もしあなたが「もっと安定して美味しいコーヒーを淹れたい」と思っているなら、この「なんとなく」が一番のハードルになります。
例えば「スプーン1杯」の豆。実は、豆の焙煎度(浅煎りか深煎りか)によって、同じスプーン1杯でも重さが数グラム変わることがあります。深煎りの豆は体積が大きく軽いため、スプーンですりきっても「実は豆が少なかった」ということが頻繁に起こります。
これでは、どんなに高級な豆を使っても、味がブレるのは当然ですよね。
レッスン#1で目指すのは『同じ条件で淹れられるようになること』
このレッスン#1のゴールは、「最高に美味しい一杯」を淹れることではありません。
まずは「毎回同じ条件で淹れられるようになる(再現性を確保する)」ことを目指します。
味が「美味しいか、不味いか」は、その次のステップです。たとえ不味くても、「毎回同じ不味さ」で淹れられるなら、そこから「粉を減らそう」「お湯を冷まそう」と調整することができます。
しかし、毎回条件がバラバラでは、調整のしようがありません。実験をするための「実験台」を、まずは一緒に整えていきましょう。
今日から変えてほしいことは、たった一つ。「粉とお湯を、毎回必ずはかる」こと。これだけです。
Step1|ハンドドリップに最低限必要な道具はこの4つ
「形から入る」というのは、実はとても理にかなっています。特にコーヒーにおいては、道具が「再現性」を担保してくれるからです。
とはいえ、いきなり数万円もするグラインダー(ミル)を買う必要はありません。まずは以下の4つだけ揃えてください。
必須1|デジタルスケール(いちばん大事な相棒)
もしあなたが「予算3,000円で何かひとつだけ買うなら?」と私に聞くなら、迷わず「デジタルスケール(キッチンスケール)」と答えます。
ドリッパーでもケトルでもなく、スケールです。
理由は単純で、「重さをはかること」以外に、味を一定にする方法がないからです。先ほどお話しした通り、スプーン計量では数グラムの誤差が出ます。お湯の量も、目分量では毎回数十mlズレてしまいます。
コーヒー専用の「コーヒースケール」であれば、0.1g単位で計測でき、時間も同時に計れるので理想的です。しかし、まずは家にある「1g単位」の料理用スケールでも構いません。「はかる習慣」をつけることが先決です。
※ただし、将来的に味の微調整(注湯スピードの管理など)をしたくなった時には、反応速度が速い0.1g単位のスケールが圧倒的に有利になります。
なぜ0.1g単位が必要?抽出を数値化するメリットを詳しく解説。
必須2|ドリッパーとペーパーフィルター
ドリッパーには「円錐型(ハリオV60など)」や「台形(カリタなど)」といった種類がありますが、結論から言うと、今お家にあるものを使ってください。
まだ持っておらずこれから買う、という場合は、お湯を注ぐスピードで味がコントロールしやすい「1つ穴の円錐型(ハリオV60など)」を当ラボではおすすめしていますが、必須ではありません。
大事なのは「毎回同じドリッパーを使うこと」です。器具を変えずに使い続けることで、自分の注ぎ方のクセや変化に気づきやすくなります。
円錐と台形、どっちがいいの?構造による味の違いを比較。
必須3|ケトル(電気でも直火でもOK)
ヤカンや電気ポットから直接お湯を注ぐのは、そろそろ卒業しましょう。
ドリップにおいて「注ぎやすさ」はそのまま「味のコントロール」に直結します。ドバっとお湯が出てしまうと、粉が暴れて雑味が出やすくなるからです。
注ぎ口が細くなっている「ドリップケトル(細口ケトル)」を用意しましょう。最初から温度調整機能がついた高級な電気ケトルを買う必要はありません。直火対応のシンプルなステンレス製ケトルや、ニトリなどで手に入る安価な製品でも十分に機能します。
それぞれのメリット・デメリットと、あなたに合う選び方。
必須4|マグ or コーヒーサーバー
最初はマグカップに直接ドリッパーを乗せても構いませんが、できれば「コーヒーサーバー」(ビーカーのようなガラス容器)があると便利です。
サーバーを使う最大のメリットは「抽出されたコーヒーの量を目で確認できること」です。また、抽出後にサーバー内でコーヒーを軽くかき混ぜることで、最初に出た濃い部分と、後から出た薄い部分が混ざり合い、味の濃度を均一にすることができます。
目盛りがついているものが多いですが、あくまで目安(受け皿)として使い、正確な量はスケールで確認するようにしましょう。
あれば嬉しいもの|タイマーなど
抽出時間を計るための「タイマー」も必要ですが、これはスマートフォンのタイマー機能で十分代用できます。
温度計や、温度調整機能付きのケトルは、レッスン#3(温度編)で「もっと味を変えたい!」と思った時に検討すればOKです。まずは「最低限の4つ」でスタートを切りましょう。
どの順番で器具に投資すべき?静音ミルや割れないサーバーまで、失敗しない優先順位を解説。
Step2|“1杯分の標準レシピ(仮)”を決めてしまおう
なぜ「標準レシピ」を1つ決めるだけで味が安定するの?
道具が揃ったら、次は淹れ方です。しかし、コーヒーの抽出には「変数(Variables)」があまりにも多すぎます。
粉の量、お湯の量、お湯の温度、豆の挽き目(細かさ)、抽出時間、注ぎ方…。これら全てを一度にコントロールしようとすると、必ず迷子になります。
味が安定しない最大の原因は、「変えなくていいところまで、毎回変えてしまっている」ことです。
だからこそ、このレッスンでは、最も簡単に固定できる変数である「粉の量」と「お湯の量」をロック(固定)してしまいます。これだけで、悩みの9割は消えます。
当ラボの“はじめの一歩レシピ”例
ここでは、世界的なスペシャルティコーヒー協会(SCA)の基準なども参考にしつつ、初心者の方が計算しやすく、かつマグカップ1杯分としてちょうど良い分量を「標準レシピ」として設定します。
メモを取る必要はありません。下のレシピカードをスクリーンショットなどで保存して、キッチンのスマホで見ながら淹れてみてください。
ちなみに、この「粉15gに対してお湯240g」という比率は、1:16(コーヒー1に対してお湯16)という、コーヒー抽出における「黄金比」の一つに基づいています。
なぜ1:16なのか?という詳しい話は、次回のレッスン#2でたっぷりと解説しますので、今は「魔法の数字」だと思って、この通りに計ってみてください。
自分の環境に合わせて、まずは“仮決め”でOK
「私の豆は深煎りだけど、このレシピでいいの?」
「浅煎りなんだけど…」
と不安に思うかもしれませんが、どんな豆でも、まずはこのレシピで淹れてみてください。
このレシピは「絶対的な正解」ではありません。あくまで、あなた自身の好みの味を見つけるための「ものさし(基準)」です。
この基準で淹れてみて、「ちょっと濃いな」と思ったら、次回はお湯を少し増やせばいい。「薄いな」と思ったら、粉を少し増やせばいい。
基準(Standard)があるからこそ、調整(Adjustment)が可能になるのです。まずは騙されたと思って、このレシピを数日間続けてみてください。
Step3|淹れる前に必ずやる「3つのルーティン」
レシピが決まったら、あとはそれを実行するだけです。ここでは、美味しいコーヒーを淹れるために、毎回必ずやってほしい「儀式」のような3つのステップを紹介します。
これを行うだけで、あなたのコーヒー抽出は「なんとなくの作業」から「再現性のある実験」へと進化します。
0リセット
キッチリはかる
記録する
① スケール&ドリッパーをセットして、ゼロリセット
まず、サーバー(またはマグカップ)の上にドリッパーを乗せ、ペーパーフィルターをセットします。そして、その状態のままスケールの上に置きます。
ここで一番大事なボタンを押します。「風袋引き(Tare)」または「0表示」ボタンです。
画面が「0 g」になった瞬間、準備完了です。この「ピッ」という音が、美味しいコーヒーへのスイッチだと思ってください。
② 粉とお湯の量を必ずはかる
粉を入れます。スケールの数値を見ながら、今回は15gきっかりを狙ってみてください。15.5gでも14.8gでもなく、15.0gを目指すゲーム感覚でOKです。
お湯を注ぐ際も同じです。スケールを見ながら、目標の240gまで注ぎます。「今日は気分でちょっと多め」はやめて、まずはレシピ通りに徹してみましょう。
この数値を守ることで、数日後に味を比較したとき、「あ、今日はブレてないな」と自信を持つことができます。
③ タイマーを押して“抽出時間”を記録する
お湯を注ぎ始めると同時に、スマホのタイマーをスタートさせます。
お湯がすべて落ちきったときのタイムを見てください。2分30秒でしたか?それとも3分を超えましたか?
今は細かく記録しなくても、「今日はいつもより落ちるのが早かったな」と感じるだけで十分です。この「時間感覚」が、後々のレッスンで味を調整する際の強力なヒントになります。
よくあるつまずきと、レッスン#2〜#6でどう解決していくか
さて、実際にこの「標準レシピ」で淹れてみて、どう感じたでしょうか?
「最高に美味しい!」となった方は素晴らしいです。でも、もしかしたら以下のように感じるかもしれません。
記事の途中で読むのをやめちゃっても、「とりあえずこれだけ」は守れるように
これからのレッスンで、温度や挽き目、注ぎ方といったディープな世界へご案内しますが、もし途中で「難しそうだな…」と思っても大丈夫です。
今日お伝えした「はかること」。
これさえ続けていれば、いつか必ず自分好みの味にたどり着けます。まずは味の正解を求めず、実験を楽しんでみてください。
「なぜそうなるのか」をもっと深く知りたい方へ。抽出比率・温度・挽き目の関係をまとめて解説。
まとめ|レッスン#1の宿題は「マイ標準レシピ」を1つ決めてメモすること
お疲れ様でした。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
最後に、今回のレッスン#1のまとめとして、あなたに一つだけ「宿題」を出させてください。
キッチンに、以下のメモを貼ってください。
そして明日から、必ずスケールを使ってこの通りに淹れてみてください。
今日からやってほしいことは、たった1つ
付箋でも、マスキングテープでも、スマホの待受画面でも構いません。
とにかく「毎回量る」という習慣さえ身につけば、あなたはもう「なんとなくドリップ」から卒業したも同然です。
道具を揃え、セットアップを整え、心の準備ができたら、あなたはもう立派な「家淹れ研究員」です。
次のレッスン#2で、“1:16の黄金比”の意味を深掘りするよ
「でも、なんで15gなの?」
「もっとたくさん飲みたい時は、どう計算すればいいの?」
そんな疑問を持った方は、ぜひ次のステップへ進んでください。次回は、世界のバリスタが共通言語として使う「ブリューレシオ(抽出比率)」について、どこよりも分かりやすく解説します。
それでは、良いコーヒーライフを!
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Specialty Coffee Association (SCA). “SCA Brewing Standards”. SCA.org.
https://sca.coffee/research/coffee-standards (参照 2023-10-01) -
全日本コーヒー協会. “コーヒーの淹れ方(ドリップ)”. ajca.or.jp.
※メジャースプーン1杯の目安が約10g(中挽き)である旨の記述を参照。
https://coffee.ajca.or.jp/basic/brew/ -
Hario Co., Ltd. “V60 透過ドリッパー02 セラミック 取扱説明書”.
※公式推奨レシピおよび計量スプーン(すりきり12g)の仕様を参照。 -
Ted R. Lingle. (2011). The Coffee Brewing Handbook. Specialty Coffee Association of America.
※抽出における「Variables(変数)」の概念および1:16〜1:18の比率の理論的背景として引用。


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