エスプレッソマシンの掃除手順｜オキシクリーンは代用できる？酸化オイルを落とす頻度と科学的洗浄

「なぜか、今日のエスプレッソが美味しくない」

豆の種類は変えていない。挽き目の調整も、抽出温度も、ドーシング量もいつも通り。レシピは再現できているはずなのに、口に含んだ瞬間に喉に引っかかるような渋みや、鼻に抜ける古い油のような臭いを感じたことはありませんか？

もし心当たりがあるなら、それは腕が落ちたわけでも、豆が急激に劣化したわけでもありません（もちろんその可能性もあります）。高い確率で、「器具の衛生状態」が限界を迎えているサインです。

当ラボも、最初は「水洗いで十分だろう」と考えていました。ですが、ポルタフィルターのスパウト内側を拭ったときの臭いと黒ずみをきっかけに、洗浄は単なる片付けではなく、「味づくりの最重要パラメータ」として扱うようになりました。

本記事では、酸化オイルを無力化し、エスプレッソマシンのポテンシャルを「初期状態」に戻すためのメンテナンス講義を行います。

結論｜“酸化オイル汚染”は、ショットの透明感を最初に殺す

エスプレッソ抽出において、コーヒーオイルはクレマを形成し、アロマ（香り）を閉じ込める重要な役割を果たします。しかし抽出が終わった瞬間から、このオイルは最大の敵へと変わります。

問題の本質は「酸化」と「固着」です。

器具に残った微細なコーヒーオイルは、空気中の酸素と反応して過酸化脂質へと変化します。さらに重合が進むと、茶渋のように頑固なポリマー状の汚れとなり、簡単には落ちなくなります。この汚れが次のショット抽出時に熱湯で溶け出し、カップに混入します。

このサイクルに入ると、いくら高価なスペシャルティコーヒーを使っても、その繊細な香りは酸化した油のオフフレーバーにマスクされてしまいます。

以下の症状が出たら「危険信号」です。

• 古くなった天ぷら油や段ボールのような臭いがする
• 飲んだ後、舌の奥や喉にイガイガする刺激（渋み）が残る
• 空ショット（お湯だけ）で、出てくる湯がうっすら茶色い／臭う

これらは、適切なケミカル洗浄で解決可能です。次は「どこが汚れるのか」をマップで確認します。

どこが汚れる？パーツ別「汚染マップ」

「見た目が綺麗なら大丈夫」というのは、エスプレッソマシンにおいて危険な思い込みです。高圧抽出では、微粉やオイルが細かい隙間や水流の裏側に潜り込みます。

特に注意すべき「汚れの潜伏スポット」をマップ化しました。ご自身のマシンを思い浮かべながら確認してください。

バスケット／ポルタフィルター（底面・スパウト内部が本丸）

最も汚れやすいのが、バスケットとポルタフィルターです。バスケットの穴は光にかざして、詰まりがないか確認してください。穴詰まりはチャネリングを誘発し、過抽出と未抽出が混在した不快な味の原因になります。

最大の問題箇所が「スパウト内部」です。ダブルスパウト（二股）タイプは物理的にブラシが届きにくく、内部にタール状の汚れが残りやすい構造です。

シャワースクリーン／ガスケット周辺（見えない側の堆積）

シャワースクリーンは一見きれいに見えますが、抽出終了時の圧力変化でコーヒー液や微粉が逆流し、スクリーンの裏側（本体接触面）に層状に蓄積します。

ガスケット周辺にも微粉が噛み込みやすく、硬化すると水漏れや装着性の悪化につながります。

逆流がある機構（※機種により差）

3wayソレノイドバルブ搭載機では、抽出後の汚れた液体がバルブ・配管を通って排出されます。メンテナンスを怠ると内部がブラックボックス化し、臭いや味の劣化につながります。

洗浄の化学｜なぜ「水」や「中性洗剤」では負けるのか

酸化して固着したコーヒーオイルは、水やお湯だけでは落ちません。食器用中性洗剤も有効ですが、複雑な形状の内部や焼き付いた汚れに対しては力不足になりがちです。

ここで必要なのは、「アルカリによる加水分解」、「酸素系による剥離」、そして「界面活性剤による再付着防止」の組み合わせです。

代用論争に決着を：オキシクリーン vs 専用洗剤（Cafiza）

結論から言うと、代用品でも汚れは落ちますが、素材リスクと運用コスト（すすぎ・管理の手間）が異なります。日本国内で入手しやすい候補を比較整理します。

製品	主成分（概略）	界面活性剤	当ラボの見解	注意点
Urnex Cafiza（専用剤）	過炭酸ナトリウム／炭酸ナトリウム 等	あり （配合）	◎ 第一選択 洗浄設計・すすぎ性のバランスが取りやすい。	濃度・時間は守る（長時間放置しない）。
オキシクリーン（通常）	過炭酸ナトリウム／炭酸ナトリウム	なし	△ 条件付き “再付着防止”の観点では専用品に劣る。	アルミ系は避ける。すすぎを丁寧に。
オキシクリーン EX	過炭酸ナトリウム／炭酸ナトリウム 等	あり	△ 条件付き 洗浄力は出やすいが運用がシビア。	界面活性剤・香りの残留が気になる場合は避ける。すすぎ徹底。

専用洗剤は「汚れが落ちる」だけでなく、残留しにくい運用設計（すすぎ性・扱いやすさ）が取りやすいのが強みです。基本は専用品を推奨します。

実践プロトコル｜頻度と手順（テンプレ）

汚れを溜めてから落とすより、「溜めない」ほうが結果的にラクです。以下のルーティンを導入してください。

毎日（最小のリセット）

毎回のショット終了後に行う、最低限の儀式です（洗剤は使いません）。

• ノック＆フラッシュ：粉を捨てたら、2〜3秒お湯を流してスクリーン表面の粉を落とす。
• お湯ですすぎ洗い：ポルタフィルターを湯で流し、可能ならバスケットを外して裏面も流す。
• 拭き上げ：水分を残さず、乾いたクロスで拭き取る（臭いの予防）。

週1〜隔週（ディープ洗浄：分解つけ置き）

家庭で1日1〜2杯なら、週1回、または豆の袋が変わるタイミングで「リセット」を行います。

用意するもの：

• 専用洗剤（パウダーまたはタブレット）
• 耐熱ボウル（ステンレス or 樹脂ボウル）
• ブラシ

手順：

1. 分解：ポルタフィルターからバスケットを外す。可能ならシャワースクリーンも外す（やけど注意）。
2. 洗浄液の作成：規定量の洗剤を熱湯で溶かす。
3. つけ置き（15〜30分）：金属パーツを浸す。
4. ブラッシング＆すすぎ：浮いた汚れを落とし、ヌルつきが消えるまで徹底すすぎ。

月1（点検：スクリーン／ガスケット／バックフラッシュ）

月に一度は、少し踏み込んだ点検を行います。

バックフラッシュ（3wayバルブ搭載機のみ）

3wayソレノイドバルブ搭載機は、盲バスケットと専用洗剤で内部洗浄（バックフラッシュ）を行います。

※De’Longhiなど、バックフラッシュ非対応の機種も多いので、必ず取扱説明書を確認してください。

消耗品チェック

ガスケットが硬化・ひび割れしていれば交換時期です。劣化すると漏れや圧力損失につながります。

素材・コーティング別の注意点（壊さない）

洗浄剤（特にアルカリ性）は強力です。材質によっては、汚れと一緒に器具を傷めます。

味の症状→汚れの対応表（診断チャート）

「汚れのせい？ レシピのせい？」で迷ったら、まずここで切り分けます。汚れが原因の場合、レシピをいじっても解決しません。

製品データセット｜日本で買うべき「正解」リスト

ここは「迷う場所」じゃなくて「決め打ちで揃える場所」です。まずは3点セットで“酸化オイル汚染”を潰しきって、必要に応じて追加ツールを足すのが最短ルートです。

まずはこの3つ

あると捗る追加ツール（画像なし・軽量リンク）

• スパウト用ブラシ（見えない“本丸”の内壁をこする） ↗
• シャワースクリーン／ガスケット交換セット（漏れ・装着性の劣化対策） ↗
• 食品用シリコングリス（ガスケット交換時の“噛み込み・鳴き”対策に） ↗

まとめ：洗浄は「一番確実な」味のアップグレード

エスプレッソは変数の塊です。豆の状態、湿度、タンピング、湯温…。どれか一つが狂うだけで味は変わります。

しかし「器具が汚れていれば、何をやっても不味くなる」ことだけは、変えようのない事実です。

逆に言えば、クリーニングは「やれば確実に初期状態へ戻せる」という、再現性の高いアップグレードです。迷ったら、新しい豆を買う前に、まずはディープクリーニングを試してください。