初心者レッスン#9|コーヒーは水で味が変わる!水道水とミネラルウォーターの選び方と正解ルール

家淹れ珈琲研究所のレッスンシリーズへようこそ。いよいよ、初心者レッスンの「素材編」も今回でラストになります。

これまでのレッスンで、ドリップの「フォーム(淹れ方)」は安定してきましたね。豆の「保存」や「飲み頃」についてもマスターしました。
ここまで来れば、おうちコーヒーのレベルは格段に上がっているはずです。でも、もしかすると今、こんな 「水まわりのモヤモヤ」を抱えていませんか?

  • 「お店と同じ豆を買ったのに、家で淹れるとなんか味が薄い…あるいは酸っぱい気がする」
  • 「旅行先で適当に淹れたコーヒーが、なぜかいつもより美味しかった(あるいはイマイチだった)」
  • 「スーパーの水売り場に来たけど、硬度? pH? 結局どれを選べばいいか分からず適当に買っている」

もし心当たりがあるなら、それはあなたの腕のせいではありません。原因は「水」にある可能性が高いです。

今回のレッスン #9 のテーマは、最後のブラックボックスである「水」を開封すること。
難しい化学式や数値計算は一切ナシ。「水が変わると味も変わるんだ!」ということを体験して、 明日から使う「マイ・ルール」の水を1本決める。それがこのレッスンのゴールです。

このレッスンのゴールと、「水はなんでもいいでしょ」問題

コーヒーのほとんどは“水”なのに、あまり気にされていない現実

突然ですが、あなたが今飲んでいるドリップコーヒー、その液体の中身の「内訳」をご存知ですか?

私たちは一生懸命、高い豆を選び、高性能なグラインダーにこだわり、0.1グラム単位で粉を計っています。しかし、カップに注がれた「コーヒーという液体」を分解してみると、衝撃的な事実が見えてきます。

ドリップコーヒーの成分比率
約99%
コーヒー成分
約1%

【99%の法則】
ドリップコーヒーの成分は、98.5%〜99%が「水」です。
私たちがこだわっている豆の成分は、わずか1%強に過ぎません。

そうなんです。コーヒーの質量の99%近くは「水」でできています。
これはつまり、 「ベースとなる水が美味しくなければ、残り1%(豆)にどれだけこだわっても、味の土台は決まらない」 ということを意味します。

「旅行先で飲んだコーヒーの味が違った」という経験も、実は気分のせいだけではありません。現地の水の性質(硬度やミネラルバランス)が自宅と違っていたことが、味の変化を生んだ最大の要因であるケースがほとんどなのです。

レッスン #9 のゴールは、“マイ水ルール”を1つ決めること

「水が大事なのはわかった。じゃあ、明日からpH試験紙で水質検査をして、マグネシウムを添加して…」

安心してください、そんな難しいことは提案しません(それは中級以上の「研究沼」の話です)。

今日このレッスンでやってほしいことは、たった一つ。
自宅にある水の候補を整理して、 「基本的にはこれを使う」という1本を決めること。

「毎回なんとなく違う水を使う」のをやめて、水を固定する。それだけで、あなたのコーヒーの再現性は驚くほど高まります。
それでは、具体的な水選びのポイントを見ていきましょう。

まず知っておきたい「コーヒー用の水」の3つのポイント

水選びで気にするべきポイントは、たった3つ。「硬度」「塩素」「一貫性」です。
ここでは細かい数値よりも、それぞれの「役割のイメージ」を掴んでください。

ポイント①|硬度(ミネラルの量)

水には「硬度(こうど)」という指標があります。カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分がどれくらい溶け込んでいるかを表す数字ですが、コーヒーにとっては「豆から成分を引き出すパワーの違い」と考えると分かりやすいです。

💧 軟水(Soft) 「素材の味をそのまま通す」
  • 日本の水道水はコレ
  • クリアで素直な味になる
  • 抽出力は優しめ(酸味が出やすい)
💪 硬水(Hard) 「成分をグイグイ引っ張り出す」
  • 欧州の水など
  • 苦味やコクが強く出る
  • パワーがある分、雑味も出やすい

一般的に、日本の水道水の平均硬度は50mg/L前後と言われており、世界的に見ても「軟水」の部類に入ります。

軟水は豆の個性を素直に引き出すので、丁寧なハンドドリップにはとても向いています。ただ、硬水に比べて成分を引っ張り出す力(抽出力)は弱いため、人によっては「あっさりしすぎている」「酸っぱい気がする」と感じることもあります。

まずは「日本の水はクリアで飲みやすいけど、少し優しく仕上がる」という特徴だけ覚えておきましょう。

ポイント②|塩素(カルキ臭)

水道水を使う場合、最大の敵は「塩素(カルキ)」です。
安全のためには不可欠ですが、繊細なスペシャルティコーヒーの香りにとっては、まるでマスクを被せられたような「邪魔者」になってしまいます。

対策はシンプル。「沸騰させる」か「浄水器を通す」かです。

▼ 塩素を追い出す沸騰のコツ

1
しっかり沸騰
ボコボコさせる
2
蓋を開ける
ここ重要!
蒸気を逃がす
3
弱火で継続
10〜15分ほど
コトコト煮出す

⚠️ 注意点:
沸騰直後に火を止めると、一時的にトリハロメタンという物質が増加する可能性があります。安全かつ美味しく飲むためには、蓋を開けて蒸気を逃しながら加熱を続けるか、活性炭フィルター付きの浄水器を使うのが確実でおすすめです。

ポイント③|一貫性(いつも同じ水かどうか)

「昨日は水道水、今日はたまたま安かったミネラルウォーター」というふうに、使う水をコロコロ変えていませんか?

水が変わると(特に硬度が変わると)、同じ豆・同じレシピでも味の出方が変わります。
そうすると、「今日のコーヒーが美味しくないのは、挽き目のせい? 温度のせい? それとも水?」と、原因が特定できなくなってしまいます。

ドリップ上達の近道は、「水という変数を固定してしまう」こと。これだけで、豆や淹れ方の違いがクリアに見えるようになります。

Step1|あなたのキッチンにある「水の候補」を洗い出そう

候補になりそうな水を、まずは全部書き出してみる

まずは、今のあなたの生活環境で「コーヒーに使えそうな水」にはどんな選択肢があるか、整理してみましょう。

A 水道水(そのまま)
0円 塩素あり
最も手軽だが、地域によって塩素の匂いや味が気になる場合がある。
B 浄水器を通した水
約7〜9円/L 軟水・塩素除去
ポット型(ブリタ等)や蛇口直結型。日本の軟水の良さを残しつつ、塩素だけカットできる。
C 市販の天然水
約50〜80円/L 味を選べる
ペットボトル。味は確実に美味しいが、毎回買う手間とゴミが出るのが難点。
D ウォーターサーバー
約80〜170円/L お湯すぐ出る
便利さは最強。水質はメーカーによる(RO水か天然水か要確認)。

一度、素の水だけを飲んでみるのがおすすめ

候補が決まったら、コーヒーを淹れる前に、常温のその水を一口飲んでみてください。

「喉にスッと入ってくるか、少し引っかかるか」「後味に甘みがあるか、金属っぽい苦味があるか」。
意識して飲むと、普段何気なく飲んでいる水にも個性があることに気づくはずです。その個性は、そのままコーヒーの味の一部になります。

Step2|とりあえず「基本の1本」を決めてしまう

まずは、“手に入りやすくて軟水寄り”を1つ選ぶ

「どれがいいか迷う…」という方へ。
家淹れ珈琲研究所としての推奨は、ズバリ「ポット型浄水器(または蛇口浄水器)を通した水道水」です。

💡
編集部のおすすめ理由
ブリタやクリンスイなどの浄水器は、初期投資が安く、ランニングコストもペットボトルの1/10以下。何より「日本の新鮮な軟水から、邪魔な塩素だけを取り除く」ことができるため、スペシャルティコーヒーのクリアな酸味を楽しむのに最もバランスが良いからです。

もしペットボトル派なら、どこでも手に入る「サントリー天然水(南アルプスなど)」のような、硬度30mg/L前後の軟水を基準(ベンチマーク)にすると良いでしょう。クセがなく、豆の味を邪魔しません。

水道水を使うなら「この一手間」だけやっておこう

浄水器がない場合でも、諦める必要はありません。以下のどれか一つを実践してください。

  1. 前日から汲み置きする(塩素を自然に抜く)
  2. しっかり沸騰させて蓋を開けて飛ばす(Step1で紹介した方法)

特に東京や大阪などの都市部にお住まいの方は、塩素対策をするだけで、コーヒーの香りの立ち方が劇的に変わります。

ミネラルウォーターを使うなら、“毎回同じ銘柄”を基本にする

「今日は安いからこっちの水」と、毎回違う銘柄を買うのは避けましょう。
日本の軟水でも、銘柄によって硬度が10mg(超軟水)だったり80mg(中硬水寄り)だったりと差があります。

味がブレる原因になるので、「ウチのコーヒーの水はこれ!」と銘柄を固定してしまうのが、安定した味への近道です。

Step3|簡単な「水の飲み比べ実験」で違いを体験しよう

理屈はここまでです。最後に、実際にあなたの舌で「水による味の違い」を体験してみましょう。
これが分かると、コーヒーの世界が一気に広がります。

同じ豆・同じレシピ・違う水で、2杯だけ淹れてみる

週末の少し時間がある時に、以下のセットで飲み比べをしてみてください。

🔬 週末の実験セット

条件:同じ豆、同じ挽き目、同じ温度で、水だけ変えて2杯淹れます。

CUP A いつもの水
(水道水 or 浄水)
基準の味。
クリアで軽やか(軟水)。
CUP B 違う硬度の水
(中硬水〜硬水)
比較用。
ボディ感が出やすい。
👀 ここに注目して飲んでみて!
  • 香り: どちらが華やかに香る?
  • 酸味: キリッとしているか、丸みがあるか?
  • 余韻: 飲み込んだ後、口の中に重さが残るのはどっち?

比較用の水としておすすめなのは、ファミリーマートなどで手に入る「霧島の天然水」(硬度150mg前後の中硬水)です。いつもの軟水との違い(=ちょっと重たい感じ、コクのある感じ)が明確に出やすいため、実験に最適です。

もし手に入れば、「エビアン」(硬度300mg以上の硬水)をいつもの水に2〜3割混ぜてみるのも面白いですよ。

差が分からなくてもOK。「気のせいかな?」くらいで十分

もし飲んでみて、「うーん、言われてみれば違うかも…?」程度でも全く問題ありません。

大事なのは劇的な変化を感じることではなく、「水によって味が変わる可能性があるんだ」と一度意識すること
その意識さえあれば、将来「なんか味が変だな」と思った時に、迷宮入りせずに「あ、水かも?」と気づけるようになります。

ライフスタイル別「とりあえずこれでOKな水ルール」3パターン

最後に、あなたの今の気分や生活スタイルに合わせた「水ルール」をご提案します。
どれか一つ選んで、明日から始めてみてください。

🚰
ミニマム派
コスパ最強
[水道水 + ポット型浄水器]
ゴミも出ず、ランニングコストも数円。日本の軟水の「クリアな良さ」を活かしたコーヒーが毎日飲める。
まずはこれが王道でおすすめ。
☕️
週末ご褒美派
メリハリ重視
[平日:浄水 / 週末:中硬水]
平日は手軽に。
週末だけ少し硬度のあるペットボトル(100mg前後)を使って、お店のようなリッチなボディ感を演出。特別感を楽しむスタイル。
⚗️
研究沼の入口派
カスタム志向
[軟水 + 硬水ブレンド]
「今日はエビアンを1割混ぜてみよう」など、自分で硬度を調整して好みの味を探す。
ここからは中級編「カスタムウォーター」の世界へ!

もっと深く知りたくなった人へ|水と抽出の“研究ノート”案内

“おいしい水”と“おいしいコーヒーの水”は、必ずしも同じではない話

最後に少しだけ、マニアックな話を。

「名水百選」に選ばれるようなそのまま飲んで美味しい水(極端な軟水やアルカリイオン水など)が、必ずしもコーヒーの酸味とコクを適正に抽出するとは限りません。

コーヒーには適度なミネラル(特にマグネシウム)があった方が、豆の成分をしっかり引き出せるという化学的な側面があるからです。
「水が変わると、抽出の何が変わるのか?」をもっと科学的に知りたくなったら、ぜひ中級編の記事を覗いてみてください。

まとめ|レッスン #9 の宿題は「コーヒーに使う水を“1本決める”こと」

お疲れ様でした! 今回のレッスンはここまでです。
水は奥が深いですが、まずは「迷いをなくすこと」が最初の一歩です。

📝 今日の宿題(アクション)
  • キッチンにある水の候補から、「基本の1本」を決める
    (迷ったら「浄水器を通した水道水」でOK!)
  • 決めたら、味の基準を作るためにしばらく浮気せずに使い続ける。

これだけで、あなたの「おうちコーヒー」の味の安定感は、プロの領域に一歩近づきます。

これで初心者レッスンCブロック「豆・保存・水」が完了!

おめでとうございます! これで「淹れ方(フォーム)」に続き、「素材(豆・保存・水)」の基礎もすべて整いました。
あなたの手元には今、美味しい豆と、適正な水、そして安定した技術があるはずです。

次回のレッスンからは、いよいよDブロック「道具と味の言語化」へ進みます。
「ドリッパーやケトル、次は何を買えばいい?」「自分の好きな味を言葉にするには?」など、自分らしいコーヒーライフを作り上げるためのステップに進んでいきましょう。

それでは、また次回の研究室でお会いしましょう。

本記事の作成にあたり参照した主な文献・データ

※記事内の「飲み比べ実験」における味の評価や推奨事項は、家淹れ珈琲研究所編集部による官能評価および独自の実証実験に基づくものです。
※硬度やミネラル成分は、採水地や時期により変動する可能性があります。

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