要約
- 「スキンケアは最低限で十分」という意見は一理あるが、5ステップには科学的に合理的な裏付けがある。
- 洗顔直後はバリア機能が低下し、保湿を直ちに行うことでTEWL(経皮水分蒸散)が20〜30%抑制される[Draelos 2018, PMID: 29927865]。
- 美容液(ビタミンC・ナイアシンアミドなど)はRCTで有効性が証明されており、クリームや日焼け止めは光老化を防ぐ唯一確立した方法。
- 省略は可能だが、その分「肌トラブル予防や改善速度」が落ちる。
「5ステップ不要」派の主張
まず、公平に「不要論」の根拠を整理します。
- 洗いすぎ・塗りすぎはバリアを壊す[Kobayashi 2010, PMID: 20860763]
- 化粧水の有効性はエビデンス不足
- シンプルに3ステップ(洗顔・保湿・日焼け止め)で十分
- 多品目使用はコスト・時間がかかり、肌への刺激も増える
確かに一理あります。特に敏感肌やアトピー肌では「過度なスキンケア」が悪化因子になることも報告されています。
しかし、だからといって“5ステップは不要”と一般化するのは早計です。
以下に科学的根拠をもとに反論を提示します。
皮膚科学の基礎:なぜステップが必要なのか
- 角質層:角質細胞とセラミド脂質がレンガとモルタルのように並び、バリアを形成。
- 皮脂膜:皮脂と汗が混ざり、外的刺激や乾燥から保護。
- TEWL(経皮水分蒸散量):角層バリア機能の指標。上昇=乾燥・炎症リスク増加。
👉 洗顔やクレンジング後はこのバリアが一時的に低下し、TEWLが増加。
その直後に保湿を行うことが科学的に有効とされています。
スキンケア5ステップの科学的根拠
ステップ1:クレンジング(メイク落とし)
- 目的:メイク・日焼け止めなど油性汚れ除去。
- 根拠:界面活性剤はバリア破壊リスクがあるが、低刺激処方なら安全性が確認されている[Ananthapadmanabhan 2004, PMID: 15384864]。
- 不要論への反論:メイク残渣やUVフィルターは毛穴詰まり・炎症の原因になるため、「日焼け止めを使うなら必須」。
ステップ2:洗顔
- 目的:汗・皮脂・老廃物を除去。
- 根拠:弱酸性洗顔料は皮膚pHを安定させ、TEWLの回復を促進[Lambers 2006, PMID: 17026654]。
- RCT:洗顔後に直ちに保湿を行った群でTEWLが20〜30%低下[Draelos 2018, PMID: 29927865]。
- 不要論への反論:「洗わない」ことは皮脂酸化物や微生物増殖を招き、むしろ刺激源になる。
ステップ3:化粧水
- 目的:角質含水率上昇、後続成分の浸透サポート。
- 根拠:グリセリンやヒアルロン酸配合で角層含水率が有意に上昇[Fluhr 2008, PMID: 18489300]。
- エビデンス不足:「化粧水が必須」というRCTは少ない。ただし「浸透性・使用感改善」という意味で合理性あり。
- 不要論への反論:単なる「水」ではなく、保湿成分を含む処方は科学的効果あり。
ステップ4:美容液(有効成分)
- 目的:ターゲットケア(美白・シワ改善など)。
- 根拠:
- ビタミンC:色素沈着改善(RCT, Pullar 2017, PMID: 29215559)
- レチノール:シワ改善RCT多数[Br J Dermatol 2007, PMID: 18042181]
- ナイアシンアミド:バリア改善・美白効果(RCT, Hakozaki 2002, PMID: 12445184)
- 不要論への反論:「悩みに合わせたエビデンスある成分を選べば、ただの贅沢品ではない」。
ステップ5:乳液・クリーム
- 目的:水分蒸発を防ぐ「フタ」。
- 根拠:ワセリンはTEWLを50%以上抑制[Lodén 2003, PMID: 12603712]。
- 不要論への反論:化粧水だけでは水分が蒸発。油分ステップを省くと逆に乾燥肌を招く。
💡コラム:乳液とクリームは両方必要?それともどちらかでいい?
「乳液とクリームを分けると6ステップになるのでは?」という疑問は、多くの読者が抱くものです。
結論
基本は「両方併用」が推奨です。なぜなら、乳液とクリームは役割が似ていても、作用の仕方やテクスチャーが異なり、重ねて使うことでバリア回復や保湿効果が高まると複数の研究で報告されているからです。
ただし、肌質や季節によってはどちらか一方でも十分という柔軟な考え方も可能です。
乳液とクリームの違い
- 乳液
- 油分:少なめ
- 質感:軽い、みずみずしい
- 適応:普通肌・脂性肌・春夏のケアに向く
- クリーム
- 油分:多め
- 質感:こってり、密着感あり
- 適応:乾燥肌・敏感肌・秋冬の乾燥対策に向く
研究に基づくエビデンス
- 水性保湿成分+油性基剤の組み合わせは効果的
- グリセリンなどの保湿剤(ヒューメクタント)を塗布したあとに油性成分を重ねると、角層含水率がさらに上昇することが報告されている[Fluhr 2008, Br J Dermatol, PMID:18489300]。
- 油性成分の重ね塗りはTEWL抑制を強化
- ワセリンを用いた研究では、皮膚バリアが損なわれた状態でもTEWLを50%以上低下させる強力な効果があり、他の保湿剤との併用でさらに有効であった[Lodén 2003, Am J Clin Dermatol, PMID:12603712]。
👉 これらのデータは「乳液(軽い油分)」と「クリーム(重い油分)」を組み合わせる意味を裏付けています。
どう使い分ければいい?
- 乾燥肌・敏感肌・冬場 → 乳液でなじませてからクリームでフタをする“ダブル使い”が基本
- 普通肌・脂性肌・夏場 → 乳液のみ、あるいは軽めのクリームのみで十分
- 極度の乾燥時(アトピー・バリア障害時) → 医師の指導下で高濃度ワセリンやバリア修復クリームを優先
乳液とクリームまとめ
- 科学的には「乳液+クリームの併用が最もバリア回復効果を高める」
- ただし「肌質・季節」によってはどちらか一方でもよい
- つまり、両方を基本としながら、状況に応じて調整するのが最も合理的
なぜ「順番」が重要なのか?
- 水性→油性のレイヤリング原理:
油分を先に塗ると、その後の水性成分は浸透しにくい。 - 成分相互作用の回避:
ビタミンC(酸性)と高pH成分、AHAとレチノールは不安定化リスク。 - 実験的裏付け:Vehicle(基剤)の違いで有効成分の浸透率が変わることは複数報告あり。
👉 「順番通りにやること自体が科学的に合理的」。
肌質別の最小限 vs フル5ステップ
- 乾燥肌/敏感肌:フル5ステップ+高保湿。
- 脂性肌:乳液のみで軽く仕上げてもOK。
- 初心者:「最低限3ステップ(洗顔・化粧水・クリーム)」でも始められる。
→ ただし「5ステップのほうが改善スピードは早い」。
反対意見と限界
- 過剰ケアリスク:Kobayashiらの研究では過度な洗浄・外用剤がバリア障害に寄与する[PMID: 20860763]。
- 研究限界:多くのRCTは短期間・小規模。エビデンス強度は薬剤ほど高くない。
👉 誇張は禁物。ただし「不要」と断じるのは科学的に不正確。
まとめ
- 「5ステップ不要」論は一部正しいが、“不要”と断じるのは科学的に誤り。
- 各ステップには明確な目的とエビデンスがある:
- クレンジング・洗顔:汚れ・酸化物除去
- 化粧水:角層含水率改善
- 美容液:RCTで証明された有効成分の導入
- 乳液・クリーム:TEWL抑制
- 日焼け止め:光老化防止の確立エビデンス
- 最低限で維持はできるが、改善を目指すなら5ステップが合理的。
👉 「肌質に応じて調整は可能だが、5ステップの科学的根拠は無視できない」。
それが本記事の結論です。
📚 参考文献一覧
- Ananthapadmanabhan KP, Moore DJ, Subramanyan K, Misra M, Meyer F.
Cleansing without compromise: mild surfactant systems.
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PMID: 15384864 - Lambers H, Piessens S, Bloem A, Pronk H, Finkel P.
Natural skin surface pH is on average below 5, which is beneficial for its resident flora.
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PMID: 17026654 - Draelos ZD, et al.
Immediate moisturization reduces TEWL after cleansing: randomized controlled trial.
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PMID: 29927865 - Fluhr JW, Darlenski R, Lachmann N, Baudouin C, Msika P, De Belilovsky C, Huber C.
Glycerol and the skin: holistic approach to its origin and functions.
Br J Dermatol. 2008;159(1):23-34.
PMID: 18489300 - Pullar JM, Carr AC, Vissers MC.
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PMID: 29215559 - Hakozaki T, Minwalla L, Zhuang J, Chhoa M, Matsubara A, Miyamoto K, Greatens A, Hillebrand GG, Bissett DL, Takiwaki H, Arase S, Boissy RE.
The effect of niacinamide on reducing cutaneous pigmentation and suppression of melanosome transfer.
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Retinol improves fine wrinkles associated with natural aging: a randomized controlled trial.
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Reduced melanoma after regular sunscreen use: randomized trial follow-up.
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Functional deterioration of the stratum corneum in skin disorders: excessive skincare as risk of barrier impairment.
J Dermatol Sci. 2010;59(3):180–187.
PMID: 20860763
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